研究
血液・腫瘍研究グループ
私たちの研究室では、小児がんに対するよりよい治療法や予後予測法を開発するために、次世代シーケンサー による高度ゲノム解析技術や高度免疫不全マウス、高次元サイトメトリー、さらには ES 細胞ならびに iPS 細胞を用いた幹細胞生物学研究などの最新技術手法を使って、分子病態の解明と新たな治療戦略開発を目指した基礎的研究に取り組んでいます。小児がんの病態解明は、さまざまな疾患の理解や生命現象の解明にもつながる重要な研究です。以下がこれまでの主な研究内容と現在のプロジェクトです。
1.神経芽腫における分子病態の解明(梅田、窪田、田坂、内原、東條、安積)
神経芽腫は主として乳幼児期に発症する神経堤由来の小児固形腫瘍であり、小児がんの中では白血病、脳腫瘍についで頻度が高いものです。高リスク神経芽腫は極めて予後不良であり、治癒率は 40-50%にとどまります。私たちは先行研究において網羅的なゲノムコピー数解析の手法によりALK の機能獲得型変異を見出し、神経芽腫の原因の一つであることを明らかにしました(Takita et al. Nature 2008)。本研究結果をもとに、難治性神経芽腫における ALK 阻害剤の臨床開発が国内外で行われています。また、神経芽腫では 11q 上の ATM 経路の 異常が発がんに関与していることを見出し、PARP 阻害剤の有用性を示しました(Takagi, Takita et al. J Natl Cancer Inst. 2017)。
さらに近年の研究では、DNAメチル化解析により11q欠失を伴う極めて予後不良なサブグループを同定し、セリン代謝酵素PHGDH依存性を標的とした治療戦略を提案しました(Watanabe, Takita et al. Oncogene 2022)。また、新規のALK融合遺伝子を発見し(Hiwatari, Takita et al. Oncogene 2022)、ALK阻害薬の有効性を証明したほか、神経芽腫と褐色細胞腫が同一起源から発生した稀な複合腫瘍においてFGFR1変異と増幅を同定するなど(Tasaka, Takita et al. Cancer Sci. 2022)、新たな分子病態の解明を進めています。
現在、日本小児がん研究グループ(JCCG)と連携し、再発神経芽腫患者を対象としたリキッドバイオプシー研究(JN-R-24試験)を推進しています。リキッドバイオプシーとは、血液中に放出された腫瘍由来のDNAやRNAを解析することで腫瘍の分子異常を評価する技術であり、腫瘍組織の再生検が困難な小児がんに特に有用です。神経芽腫は血漿中に比較的高頻度に腫瘍由来DNAが検出されることが知られており、この手法が本疾患に適していると考えられます。血漿中の循環腫瘍DNA/RNAを解析し、治療抵抗性や再発に寄与する分子異常を低侵襲かつ連続的に追跡することで、個別化治療の実現を目指しています。
さらに近年の研究では、DNAメチル化解析により11q欠失を伴う極めて予後不良なサブグループを同定し、セリン代謝酵素PHGDH依存性を標的とした治療戦略を提案しました(Watanabe, Takita et al. Oncogene 2022)。また、新規のALK融合遺伝子を発見し(Hiwatari, Takita et al. Oncogene 2022)、ALK阻害薬の有効性を証明したほか、神経芽腫と褐色細胞腫が同一起源から発生した稀な複合腫瘍においてFGFR1変異と増幅を同定するなど(Tasaka, Takita et al. Cancer Sci. 2022)、新たな分子病態の解明を進めています。
現在、日本小児がん研究グループ(JCCG)と連携し、再発神経芽腫患者を対象としたリキッドバイオプシー研究(JN-R-24試験)を推進しています。リキッドバイオプシーとは、血液中に放出された腫瘍由来のDNAやRNAを解析することで腫瘍の分子異常を評価する技術であり、腫瘍組織の再生検が困難な小児がんに特に有用です。神経芽腫は血漿中に比較的高頻度に腫瘍由来DNAが検出されることが知られており、この手法が本疾患に適していると考えられます。血漿中の循環腫瘍DNA/RNAを解析し、治療抵抗性や再発に寄与する分子異常を低侵襲かつ連続的に追跡することで、個別化治療の実現を目指しています。
2.その他の固形腫瘍における統合的ゲノム解析 (梅田、窪田、田坂、上月、内原、西尾)
私たちは希少固形腫瘍を対象に、次世代シーケンサーを用いた統合的ゲノム解析を進めています。これまでに、散発性肺芽腫の解析からDICER1 の両アレル変異が原因であることを明らかにしました(Seki Takita et al. Cancer Res. 2014)。また、小児軟部腫瘍で最も高頻度にみられる横紋筋肉腫では、ゲノム・エピゲノム異常の全体像を解明し、DNAメチル化パターンに基づき予後不良な一群を抽出しました(Seki, Takita et al. Nat Commun. 2015)。さらに、11qのIGF2を含むインプリンティング領域のヘテロ接合性消失とWNT経路の異常という均一な遺伝学的特徴を見出しました(Isobe, Takita et al, Cancer Res. 2018)。
思春期に好発する代表的な小児悪性骨腫瘍である骨肉腫の遺伝子解析により、糖鎖関連酵素C1GALT1が予後不良群において高発現しており新たな治療標的となり得ることを示しました(Watanabe, Takita et al. Cancer Gene Ther. 2024)。加えて、再発・進行骨肉腫に対しては、MGMTタンパク発現がテモゾロミド併用化学療法の奏効を予測する有力なバイオマーカーであることを明らかにしました(Uchihara, Umeda et al. Cancer Sci. 2024)。これらの成果は、骨肉腫の新たな治療層別化と分子標的治療開発の可能性を広げるものです。
近年は研究対象をさらに拡大し、稀少腫瘍の解析に取り組んでいます。肝未分化肉腫(UESL)は小児に発症する極めて稀な肝悪性腫瘍で、発症機構や治療戦略が十分に確立されていない疾患です。私たちはUESLに対して全ゲノム解析やmiRNA発現解析を組み合わせた統合解析を行い、腫瘍発症に関わる分子異常の全容解明に迫りつつあります。また、ダウン症に合併する胚細胞腫瘍も重要な研究課題です。ダウン症では急性白血病のリスクが高い一方で、固形腫瘍は一般に発症しにくいことが知られていますが、例外的に胚細胞腫瘍の発症頻度が高いことが報告されています。この特徴的な背景を理解するため、私たちは包括的マルチオミックス解析を実施し、非ダウン症例と比較した際の遺伝子発現やメチル化の差異を明らかにする研究を進めています。
さらに、私たちは、全ゲノム解析等実行計画を基盤とするプロジェクト(Genome research in Cancers and Rare Diseases : G-CARDS)に参加し、神経芽腫や横紋筋肉腫を含む小児固形腫瘍の全ゲノム解析を進めています。この研究を通じて、腫瘍の新規ドライバー変異や構造異常を同定し、小児固形腫瘍の病態基盤の理解を深めるとともに、次世代治療の開発につなげることを目指しています。
また、血漿中の循環腫瘍DNAを用いたリキッドバイオプシー解析の応用も固形腫瘍全般に拡大しつつあります。腫瘍組織サンプリングが困難な稀少腫瘍や進行例においても、リキッドバイオプシーにより低侵襲で動態を連続的に把握することが可能であり、分子異常の早期検出や治療効果判定、耐性獲得機構の解明に資することが期待されています。
思春期に好発する代表的な小児悪性骨腫瘍である骨肉腫の遺伝子解析により、糖鎖関連酵素C1GALT1が予後不良群において高発現しており新たな治療標的となり得ることを示しました(Watanabe, Takita et al. Cancer Gene Ther. 2024)。加えて、再発・進行骨肉腫に対しては、MGMTタンパク発現がテモゾロミド併用化学療法の奏効を予測する有力なバイオマーカーであることを明らかにしました(Uchihara, Umeda et al. Cancer Sci. 2024)。これらの成果は、骨肉腫の新たな治療層別化と分子標的治療開発の可能性を広げるものです。
近年は研究対象をさらに拡大し、稀少腫瘍の解析に取り組んでいます。肝未分化肉腫(UESL)は小児に発症する極めて稀な肝悪性腫瘍で、発症機構や治療戦略が十分に確立されていない疾患です。私たちはUESLに対して全ゲノム解析やmiRNA発現解析を組み合わせた統合解析を行い、腫瘍発症に関わる分子異常の全容解明に迫りつつあります。また、ダウン症に合併する胚細胞腫瘍も重要な研究課題です。ダウン症では急性白血病のリスクが高い一方で、固形腫瘍は一般に発症しにくいことが知られていますが、例外的に胚細胞腫瘍の発症頻度が高いことが報告されています。この特徴的な背景を理解するため、私たちは包括的マルチオミックス解析を実施し、非ダウン症例と比較した際の遺伝子発現やメチル化の差異を明らかにする研究を進めています。
さらに、私たちは、全ゲノム解析等実行計画を基盤とするプロジェクト(Genome research in Cancers and Rare Diseases : G-CARDS)に参加し、神経芽腫や横紋筋肉腫を含む小児固形腫瘍の全ゲノム解析を進めています。この研究を通じて、腫瘍の新規ドライバー変異や構造異常を同定し、小児固形腫瘍の病態基盤の理解を深めるとともに、次世代治療の開発につなげることを目指しています。
また、血漿中の循環腫瘍DNAを用いたリキッドバイオプシー解析の応用も固形腫瘍全般に拡大しつつあります。腫瘍組織サンプリングが困難な稀少腫瘍や進行例においても、リキッドバイオプシーにより低侵襲で動態を連続的に把握することが可能であり、分子異常の早期検出や治療効果判定、耐性獲得機構の解明に資することが期待されています。

神経芽腫と横紋筋肉腫における先行研究

リキッドバイオプシーと組織検体の統合解析
3.造血器腫瘍におけるゲノム・エピゲノム解析(才田、加藤、窪田、神鳥、赤澤、幸伏、三谷)
T細胞性急性リンパ性白血病(T-ALL)の中でも、とりわけ再発・非寛解例は予後不良であることから、新たな 治療法の開発が必要です。私たちは、T-ALLの臨床検体を用いて、全トランスクリプトーム解析を行い、重複 する新規 SPI1 関連融合遺伝子を約4%の例に見出しました。SPI1 融合遺伝子陽性例は、極めて予後不良で、特有の発現プロファイルを有することが明らかとなり(Seki, Takita et al. Nat Genet. 2017)、T-ALLにおける世界初の予後不良マーカーとして治療層別化に寄与しうることが示されました。現在は、多施設共同研究で収集した検体を用いてゲノム・エピゲノムの統合解析を進め、症例間の多様性や治療抵抗性の分子基盤を明らかにし、T-ALLの新たな分子層別化と個別化治療の実現を目指しています。
小児B前駆細胞性急性リンパ性白血病(BCP-ALL)は小児がんの中で最も頻度が高い疾患であり、近年の治療成績向上により全体として90%を超える治癒率が得られています。しかし一部の高リスク群や再発例の予後は依然として不良であり、その病態解明が重要な課題です。私たちは乳児KMT2A再構成ALLに対する包括的多層オミックス解析から、IRX転写因子の高発現とBリンパ球の最も未分化な発現パターンを特徴とする一群を同定し、この群がRAS経路の異常を高頻度に重複する極めて悪性度の高い一群であることを明らかにしました(Isobe, Takita et al. Nat Commun. 2022)。さらに、小児BCP-ALL再発例を主体としたmiRNAとmRNAの統合解析により、既存の遺伝的サブタイプに依存しない新たな予後不良miRNAシグネチャーを同定しました(Kubota, Takita et al. Blood Adv. 2024)。これらの成果は、再発リスクをより精緻に予測する新規バイオマーカーの可能性を提示し、将来の個別化医療の発展に寄与すると期待されます。
慢性活動性EBウイルス感染症(CAEBV)は、EBウイルスがT細胞やNK細胞に感染し腫瘍様に増殖することで発症する予後不良な疾患です。私たちは、CAEBV患者65例を対象に多層的オミックス解析を行い、NK細胞型CAEBVにおいてエピゲノム異常に基づく2つの分子サブタイプが存在することを明らかにしました。特に、CIMP(CpG island methylator phenotype)陽性群では腫瘍抑制遺伝子の発現低下や免疫逃避関連の異常が認められ、予後不良との関連が示されました。さらに、新たな単一細胞解析技術により、EBV感染細胞の高精度な検出と免疫破綻の定量評価が可能となりました(Akazawa, Takita et al, Blood 2025)。本研究は、エピゲノムに着目した新たな病型分類と治療戦略の確立に向けた重要な一歩となることが期待されます。
最未分化型急性骨髄性白血病(AML M0)は、小児AMLの中でも稀な病型であり、その分子基盤は十分に解明されていません。私たちはAML M0に対する網羅的ゲノム・エピゲノム解析を進める中で、AML M0が他のAMLとは異なる特徴的な分子背景を有することを明らかにしつつあります。特に特定の転写因子関連遺伝子の異常が高頻度に認められ、予後に影響を及ぼす可能性が示されています。これらの知見はAML M0の病態理解を深めるとともに、新たな治療標的や予後予測因子の確立につながることが期待されます。
小児B前駆細胞性急性リンパ性白血病(BCP-ALL)は小児がんの中で最も頻度が高い疾患であり、近年の治療成績向上により全体として90%を超える治癒率が得られています。しかし一部の高リスク群や再発例の予後は依然として不良であり、その病態解明が重要な課題です。私たちは乳児KMT2A再構成ALLに対する包括的多層オミックス解析から、IRX転写因子の高発現とBリンパ球の最も未分化な発現パターンを特徴とする一群を同定し、この群がRAS経路の異常を高頻度に重複する極めて悪性度の高い一群であることを明らかにしました(Isobe, Takita et al. Nat Commun. 2022)。さらに、小児BCP-ALL再発例を主体としたmiRNAとmRNAの統合解析により、既存の遺伝的サブタイプに依存しない新たな予後不良miRNAシグネチャーを同定しました(Kubota, Takita et al. Blood Adv. 2024)。これらの成果は、再発リスクをより精緻に予測する新規バイオマーカーの可能性を提示し、将来の個別化医療の発展に寄与すると期待されます。
慢性活動性EBウイルス感染症(CAEBV)は、EBウイルスがT細胞やNK細胞に感染し腫瘍様に増殖することで発症する予後不良な疾患です。私たちは、CAEBV患者65例を対象に多層的オミックス解析を行い、NK細胞型CAEBVにおいてエピゲノム異常に基づく2つの分子サブタイプが存在することを明らかにしました。特に、CIMP(CpG island methylator phenotype)陽性群では腫瘍抑制遺伝子の発現低下や免疫逃避関連の異常が認められ、予後不良との関連が示されました。さらに、新たな単一細胞解析技術により、EBV感染細胞の高精度な検出と免疫破綻の定量評価が可能となりました(Akazawa, Takita et al, Blood 2025)。本研究は、エピゲノムに着目した新たな病型分類と治療戦略の確立に向けた重要な一歩となることが期待されます。
最未分化型急性骨髄性白血病(AML M0)は、小児AMLの中でも稀な病型であり、その分子基盤は十分に解明されていません。私たちはAML M0に対する網羅的ゲノム・エピゲノム解析を進める中で、AML M0が他のAMLとは異なる特徴的な分子背景を有することを明らかにしつつあります。特に特定の転写因子関連遺伝子の異常が高頻度に認められ、予後に影響を及ぼす可能性が示されています。これらの知見はAML M0の病態理解を深めるとともに、新たな治療標的や予後予測因子の確立につながることが期待されます。

T-ALL で検出された SPI1 融合遺伝子

BCP-ALLにおける予後不良のmiRNAプロファイル

CAEBVにおけるエピゲノム変化
4.NOG マウスを用いた白血病の研究(加藤、才田、田中、三上、安積、西尾、三谷)
造血幹細胞は自己複製能と全ての種類への血球へ分化できる多分化能を併せ持った細胞と定義されています。 骨髄移植や臍帯血移植、末梢血幹細胞移植などのいわゆる「造血細胞移植」ではこの造血幹細胞が患者さんの骨髄の中で分化増殖して造血系を再構築すると考えられています。しかしながらヒト造血幹細胞研究は実験系の制約からマウスなどのそれに比べて遅れている現状にありました。我々の教室ではヒト造血幹細胞の生着に極めて優れた NOD/SCID/γcnull (NOG) mouseを世界に先駆けて開発 し、正常造血幹細胞や白血病細胞をマウスに生着させて、生体内で研究できる系の構築に成功しました(Hiramatsu, Nakahata, et al. Blood 2003)。この実験系は、正常造血や白血病の発症機構解明に大きく寄与してきました。この患者由来腫瘍組織移植(PDX: Patient-derived xenograft)モデルは患者さんから得られた腫瘍細胞を免疫不全マウスに移植し、生体内で腫瘍の特徴や薬剤応答を再現できる前臨床モデルであり、従来の細胞株では捉えきれない腫瘍の多様性や治療反応性を保持できる点が大きな強みです。
これまで、私たちはダウン症児に特有の一過性骨髄増殖症(TAM)からダウン症関連骨髄性白血病(ML-DS)への進展を再現するモデルを構築し(Saida et al. Blood 2013)、ヒトにおける前白血病から白血病への移行メカニズムの解析に取り組んでいます。また、小児急性リンパ性白血病のNOGモデルを用い、肝臓や中枢神経など髄外微小環境が白血病再発に寄与することを明らかにし、その分子基盤を標的とする新規治療戦略を提示しました(Kato et al. PLoS One 2011, Blood 2017)。さらに、再発・難治性ALLに有効とされるCAR-T細胞療法を中枢神経白血病へ応用する研究を進め、NOGマウス脳室内投与モデルを用いた検証により、髄腔内直接投与による有効性を示しました(Tanaka, Kato et al. Mol Ther Oncolytics. 2020)。加えて、日本初の小児ALL患者由来PDXバイオバンクを構築し(Tanaka, Kato et al. Cancer Sci. 2022)、薬剤応答性や新規免疫療法の評価、耐性メカニズムの解明などに資する貴重なリソースとして、臨床応用を見据えた研究基盤を提供しています。
これまで、私たちはダウン症児に特有の一過性骨髄増殖症(TAM)からダウン症関連骨髄性白血病(ML-DS)への進展を再現するモデルを構築し(Saida et al. Blood 2013)、ヒトにおける前白血病から白血病への移行メカニズムの解析に取り組んでいます。また、小児急性リンパ性白血病のNOGモデルを用い、肝臓や中枢神経など髄外微小環境が白血病再発に寄与することを明らかにし、その分子基盤を標的とする新規治療戦略を提示しました(Kato et al. PLoS One 2011, Blood 2017)。さらに、再発・難治性ALLに有効とされるCAR-T細胞療法を中枢神経白血病へ応用する研究を進め、NOGマウス脳室内投与モデルを用いた検証により、髄腔内直接投与による有効性を示しました(Tanaka, Kato et al. Mol Ther Oncolytics. 2020)。加えて、日本初の小児ALL患者由来PDXバイオバンクを構築し(Tanaka, Kato et al. Cancer Sci. 2022)、薬剤応答性や新規免疫療法の評価、耐性メカニズムの解明などに資する貴重なリソースとして、臨床応用を見据えた研究基盤を提供しています。

PDXによるTAMの病態再現

ヒト白血病化NOG マウスの肝臓内イメージ
胆管上皮細胞(赤)周囲に白血病細胞(緑)が集蔟
胆管上皮細胞(赤)周囲に白血病細胞(緑)が集蔟

マウスへの白血病細胞髄腔内移植
5.白血病免疫環境の解析(加藤、三上、幸伏)
白血病の発症や治癒過程においては白血病細胞と免疫担当細胞などの生体環境が密接な関係があると考えられ ていますが、その詳細は明らかでありません。私たちは現在、質量分析型フローサイトメトリー(マスサイトメトリー, CyTOF)やシングルセル解析といった最先端の解析技術を用いて、骨髄および末梢血における白血病免疫環境の高次元プロファイリングを進めています。
私たちはこれまで小児B前駆細胞性急性リンパ性白血病(BCP-ALL)の初発および再発例における免疫環境の動態を明らかにしました。その結果、再発例ではTh1に偏倚した炎症性環境とエフェクターTregの増加が特徴的であることが示され、骨髄免疫環境の破綻が再発病態に寄与する可能性が示されました(Mikami, Kato et al. Cancer Sci. 2021)。さらに、KMT2A再構成白血病におけるlineage switch例を対象にした多層的オミックス解析により、lineage switch後のAML細胞が単球系MDSC様(M-MDSC様)の免疫抑制表現型を獲得し、T細胞増殖の抑制やTreg誘導など免疫回避能を有することを明らかにしました(Mikami, Kato et al. Nat Commun. 2025)。この知見は、白血病細胞が治療抵抗性を獲得する仕組みを免疫学的観点から理解するうえで重要であり、今後の免疫療法開発や予後予測バイオマーカー探索に直結すると期待されます。
現在は、多施設共同研究を通じて、ブリナツモマブ(CD19とT細胞を架橋する二重特異性抗体療法)やCAR-T細胞治療(患者自身のT細胞を遺伝子改変して標的抗原を攻撃させる治療)を受けた小児白血病患者における免疫環境の解析も進めています。治療前後の免疫細胞動態や免疫抑制性細胞の変化を多層的に評価することで、奏功例と非奏功例の差異を明らかにし、奏功予測因子や治療抵抗性克服戦略の開発に資することを目指しています。
私たちはこれまで小児B前駆細胞性急性リンパ性白血病(BCP-ALL)の初発および再発例における免疫環境の動態を明らかにしました。その結果、再発例ではTh1に偏倚した炎症性環境とエフェクターTregの増加が特徴的であることが示され、骨髄免疫環境の破綻が再発病態に寄与する可能性が示されました(Mikami, Kato et al. Cancer Sci. 2021)。さらに、KMT2A再構成白血病におけるlineage switch例を対象にした多層的オミックス解析により、lineage switch後のAML細胞が単球系MDSC様(M-MDSC様)の免疫抑制表現型を獲得し、T細胞増殖の抑制やTreg誘導など免疫回避能を有することを明らかにしました(Mikami, Kato et al. Nat Commun. 2025)。この知見は、白血病細胞が治療抵抗性を獲得する仕組みを免疫学的観点から理解するうえで重要であり、今後の免疫療法開発や予後予測バイオマーカー探索に直結すると期待されます。
現在は、多施設共同研究を通じて、ブリナツモマブ(CD19とT細胞を架橋する二重特異性抗体療法)やCAR-T細胞治療(患者自身のT細胞を遺伝子改変して標的抗原を攻撃させる治療)を受けた小児白血病患者における免疫環境の解析も進めています。治療前後の免疫細胞動態や免疫抑制性細胞の変化を多層的に評価することで、奏功例と非奏功例の差異を明らかにし、奏功予測因子や治療抵抗性克服戦略の開発に資することを目指しています。

最新マスサイトメトリーを用いた解析

KMT2A再構成白血病におけるLineage switch後のAML細胞におけるM-MDSC様免疫抑制表現型
6.小児固形がんをターゲットとした新規治療開発 (梅田、緒方、安積)
小児がん全体の治療成績は集学的治療の進歩により向上してきましたが、神経芽腫、横紋筋肉腫、ユーイング肉腫、悪性ラブドイド腫瘍などの小児固形がんでは依然として予後不良例が多く、新たな治療法の開発が強く求められています。
私たちは、小児固形がんの細胞株や患者由来腫瘍をNOGマウスに移植する実験系を基盤に、新規治療法の開発を進めています。その一環として、ヒトES細胞やiPS細胞から神経堤細胞を分化誘導する過程で発現する表面抗原を網羅的にスクリーニングし、多くの小児固形がんで共通して発現する抗原を同定しました。この抗原を標的とした抗体投与により、マウスモデルで腫瘍縮小効果を確認し、小児固形がんに共通した新規抗体治療の可能性を提示しました(Nodomi, Umeda et al. Oncogene 2016, Obu, Umeda et al. Cancer Sci. 2021)。
さらに、患者腫瘍組織移植(PDX)モデルを多数樹立し、PDXライブラリーを活用して小児固形がん幹細胞の解析や新規治療標的の探索を行っています。我々はこれまでに神経芽腫、横紋筋肉腫、ユーイング肉腫、悪性ラブドイド腫瘍などさまざまな小児固形がんのPDX 細胞を作成しています。この研究基盤により、従来の細胞株では捉えきれなかった腫瘍内の多様性や幹細胞性を反映した前臨床研究を進めることが可能となりました。これらの取り組みにより、私たちは小児固形がんに対する次世代型の分子標的治療や免疫治療の実現を目指しています。
私たちは、小児固形がんの細胞株や患者由来腫瘍をNOGマウスに移植する実験系を基盤に、新規治療法の開発を進めています。その一環として、ヒトES細胞やiPS細胞から神経堤細胞を分化誘導する過程で発現する表面抗原を網羅的にスクリーニングし、多くの小児固形がんで共通して発現する抗原を同定しました。この抗原を標的とした抗体投与により、マウスモデルで腫瘍縮小効果を確認し、小児固形がんに共通した新規抗体治療の可能性を提示しました(Nodomi, Umeda et al. Oncogene 2016, Obu, Umeda et al. Cancer Sci. 2021)。
さらに、患者腫瘍組織移植(PDX)モデルを多数樹立し、PDXライブラリーを活用して小児固形がん幹細胞の解析や新規治療標的の探索を行っています。我々はこれまでに神経芽腫、横紋筋肉腫、ユーイング肉腫、悪性ラブドイド腫瘍などさまざまな小児固形がんのPDX 細胞を作成しています。この研究基盤により、従来の細胞株では捉えきれなかった腫瘍内の多様性や幹細胞性を反映した前臨床研究を進めることが可能となりました。これらの取り組みにより、私たちは小児固形がんに対する次世代型の分子標的治療や免疫治療の実現を目指しています。

小児固形がんのPDXモデルを用いた分子標的治療や免疫治療の開発
7.小児白血病における微小残存病変(MRD)の検出 (平松、三上、加藤、幸伏)
小児白血病はその多くが化学療法で治癒する疾患となりましたが、4~5 人に1人の再発が見られます。再発を早期に予測できれば、さらなる治療成績の向上につながると考えられています。近年、治療後にわずかに残存する白血病細胞を検出する微小残存病変(MRD; minimal residual disease)の評価が重要な予後予測因子であることが報告されています。私たちは、JPLSG(Japanese Pediatric Leukemia/Lymphoma Study Group)におけるMRD中央診断施設として、急性骨髄性白血病(AML)を中心にマルチカラーフローサイトメトリー(FCM)を用いたMRD測定を行ってきました。その結果、0.1%以下の高感度でのMRD評価が予後予測に有用であり、治療層別化に組み込むべきであることを明らかにしました(Taga, Hiramatsu et al. Leukemia 2021 、Tomizawa, Hiramatsu et al. Leukemia 2024)。
さらに、マスサイトメトリー(CyTOF)を用いた新たなMRD解析法の開発にも取り組んでいます。AML患者の寛解期検体を対象に多次元解析を行った結果、従来のFCMでは検出できなかった再発前のMRDの同定や、長期生存例における確実なMRD陰性化の確認に成功しました。また、再発例における白血病幹細胞マーカーの解析から新規バイオマーカーの探索も進めています。これらの取り組みにより、私たちは従来のFCM法と次世代のCyTOF解析を組み合わせた包括的MRD評価系を構築しつつあり、小児白血病の再発予測精度の向上と個別化治療の最適化を目指しています。
さらに、マスサイトメトリー(CyTOF)を用いた新たなMRD解析法の開発にも取り組んでいます。AML患者の寛解期検体を対象に多次元解析を行った結果、従来のFCMでは検出できなかった再発前のMRDの同定や、長期生存例における確実なMRD陰性化の確認に成功しました。また、再発例における白血病幹細胞マーカーの解析から新規バイオマーカーの探索も進めています。これらの取り組みにより、私たちは従来のFCM法と次世代のCyTOF解析を組み合わせた包括的MRD評価系を構築しつつあり、小児白血病の再発予測精度の向上と個別化治療の最適化を目指しています。
8.患者由来 iPS 細胞を用いた先天性血液疾患の研究 (梅田、上月)
さまざまな先天性血液疾患では心・血管・リンパ系、神経・骨格筋系等の機能障害や形成不全を伴うことが知られています。近年、これらの疾患の多くで原因となる遺伝子変異が同定され、それらは多系列の臓器発生・分化、DNA 修復、リボソームの生成などに深く関連した遺伝子であることがわかってきました。私たちは、患者由来iPS細胞を用いた疾患モデル化により、多系統臓器の分化誘導や各系統細胞の機能解析を行い、病態解明と新規治療法開発の基盤技術の確立を目指しています。
これまでに、iPS細胞から好中球を分化誘導するシステムを確立し(Morishima, Watanabe et al. J Cell Physiol. 2011)、先天性好中球減少症の患者iPS細胞で病態を再現することに成功しました(Morishima, Watanabe et al. Haematologica 2014)。さらに、Shwachman-Diamond症候群(SDS)は骨髄不全を伴う代表的なリボソーム異常症ですが、患者由来iPS細胞の血液細胞・内皮細胞の分化過程を解析することで、共通血管造血前駆細胞がアポトーシスに傾きやすい性質を持つことを明らかにしました。この結果、SDSの造血不全が最も早い造血段階から始まることを示し、リボソーム異常症の病態理解に重要な知見を提供しました(Hamabata, Umeda et al. Sci Rep. 2020)。また、Emberger症候群(GATA2遺伝子異常)は先天性リンパ浮腫に加えて免疫不全・骨髄不全を伴い、成人期には骨髄不全や白血病へ進展するリスクを有する稀少疾患です。私たちは患者由来iPS細胞を用いてリンパ系分化異常の障害を再現することに成功し、病態解明の糸口を提示しました(Kouzuki, Umeda et al. Int J Hematol. 2025)。
このように患者由来iPS細胞を用いた疾患モデルの拡充や関連分子の解析により病態理解や治療法開発の基盤となる知見の蓄積を目指しています。
これまでに、iPS細胞から好中球を分化誘導するシステムを確立し(Morishima, Watanabe et al. J Cell Physiol. 2011)、先天性好中球減少症の患者iPS細胞で病態を再現することに成功しました(Morishima, Watanabe et al. Haematologica 2014)。さらに、Shwachman-Diamond症候群(SDS)は骨髄不全を伴う代表的なリボソーム異常症ですが、患者由来iPS細胞の血液細胞・内皮細胞の分化過程を解析することで、共通血管造血前駆細胞がアポトーシスに傾きやすい性質を持つことを明らかにしました。この結果、SDSの造血不全が最も早い造血段階から始まることを示し、リボソーム異常症の病態理解に重要な知見を提供しました(Hamabata, Umeda et al. Sci Rep. 2020)。また、Emberger症候群(GATA2遺伝子異常)は先天性リンパ浮腫に加えて免疫不全・骨髄不全を伴い、成人期には骨髄不全や白血病へ進展するリスクを有する稀少疾患です。私たちは患者由来iPS細胞を用いてリンパ系分化異常の障害を再現することに成功し、病態解明の糸口を提示しました(Kouzuki, Umeda et al. Int J Hematol. 2025)。
このように患者由来iPS細胞を用いた疾患モデルの拡充や関連分子の解析により病態理解や治療法開発の基盤となる知見の蓄積を目指しています。

human iPS 細胞からの好中球分化誘導

SDS患者のiPS細胞からの血球分化による病態再現
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臨床研究公開情報(京都大学)
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